高気圧酸素治療について
高気圧酸素治療とは高気圧環境下で高濃度の酸素を吸入させることにより生理的、化学的、物理的作用により病態の改善を図ろうとする治療です。治療には、担当医の指示の下、臨床工学技士が担当しております。
主な効果
- 体内酸素量の増加による生体内の循環障害・低酸素状態の改善効果
- 酸素の抗菌作用を利用し、細菌の発育を阻害する抗菌効果
- 生体内にできた気体を圧縮・再溶解することにより末梢循環を改善し、組織の浮腫を軽減させる生体内気体の圧縮・溶解効果
高気圧酸素治療の概要
酸素は、通常の大気圧環境下において、97%が血液中のヘモグロビンと結合することにより体内(血中)に運ばれます。物理的に溶解した溶解型酸素による組織への運搬は非常に少量で、3 %にすぎません。しかし、高気圧環境下での高濃度酸素吸入による酸素分圧の増加に比例して、溶解型酸素が増加するので、酸素の運搬が低下している病態においては、高気圧酸素治療の治療効果が発揮されます。代表的な適応疾患にはバージャー病などの末梢血行障害や一酸化炭素中毒などがあります。一酸化炭素は、酸素より250倍もヘモグロビンに結合しやすいために、酸素とヘモグロビンとの結合を阻害して、一酸化炭素ヘモグロビンとなります。そうなると赤血球は、酸素を全身に運ぶことができなくなり、全身の組織では酸素不足に陥ってしまいます。一酸化炭素ヘモグロビン濃度が10〜20%の中等症なら、100%酸素を吸入させます。一酸化炭素ヘモグロビン濃度が20%以上の重症であれば、高圧タンクによる高圧酸素治療が必要になります。通常は大気圧の2倍の2気圧で1時間、酸素のあるタンクに入ります。酸素分圧を増加させて、ヘモグロビンに結合している一酸化炭素が、酸素と置き換わりやすい条件にしてあげます。 また、嫌気性細菌などに対する殺菌作用が、高気圧酸素療法における化学的治療効果です。高圧力による物理的作用により、潜水病などのために血中で泡沫化したガスを消失させる効果もあります。
高気圧酸素治療の適応
高気圧酸素治療は、様々な疾患に適応されており、健康保険上では、次のように区分されています。治療効果については、個人差がありますが、治療を継続することでその効果が維持されます。
治療は通常1日1回です。治療回数は、適応疾患や患者さんの症状によって担当医が判断します。少ない治療回数の場合5~7回、治療回数が多い時には30回程度になります。
●減圧症又は空気塞栓に対するもの
※現在、当院では施行しておりません
●その他のもの
- ア 急性一酸化炭素中毒その他のガス中毒(間歇型を含む。)
- イ 重症軟部組織感染症(ガス壊疽、壊死性筋膜炎)又は頭蓋内膿瘍
- ウ 急性末梢血管障害
(イ) 重症の熱傷又は凍傷
(ロ) 広汎挫傷又は中等度以上の血管断裂を伴う末梢血管障害
(ハ) コンパートメント症候群又は圧挫症候群 - エ 脳梗塞
- オ 重症頭部外傷後若しくは開頭術後の意識障害又は脳浮腫
- カ 重症の低酸素脳症
- キ 腸閉塞
- ア 網膜動脈閉塞症
- イ 突発性難聴 ※現在、当院では施行しておりません
- ウ 放射線又は抗癌剤治療と併用される悪性腫瘍
- エ 難治性潰瘍を伴う末梢循環障害
- オ 皮膚移植
- カ 脊髄神経疾患
- キ 骨髄炎又は放射線障害
高気圧酸素治療の流れ
- 専用の治療着(綿100%素材)に着替えます。
- 医師・看護師から症状の確認と所持品・衣類の点検、検査を行います。
※治療前には必ずトイレを済ませて下さい。 - 高気圧酸素治療室へ移動します。
- 臨床工学技士により症状の確認、治療の説明、耳抜きの説明、衣類の点検、所持品検査を行います。
※病態によっては心電図を取り付けさせて頂きます。 - 治療装置内へ入り、治療を始めます。
※治療時間は大気圧から治療気圧に上げるため15分間、治療気圧60分、治療気圧から大気圧へ戻すために15分間、合計で約1時間30分を要します。
※治療中は、患者さん自身にして頂くことは特にありません。装置の中で治療時間を過ごして頂くだけです。テレビを見て頂いても結構ですし、お休みになられても構いません。
※治療中は、装置に備え付けのマイクで患者さんとコミュニケーションがとれます。 - 治療終了後に副作用(頭痛、歯痛、吐気、耳痛、耳鳴り)の確認をします。
高気圧酸素治療を受けるにあたって
高気圧酸素治療は、通常の治療では人体への影響はありません。ただし、次のような方は治療を受けることができないことがありますので、担当医にご相談下さい。また、治療担当技士にあらかじめお知らせ下さい。
治療を受けることが出来ない方
- 風邪をひいて耳抜きができないとき(鼻が詰まっていたり、鼻水が出ているとき)
- おなかの調子が悪いとき(下痢など)
- ペースメーカーを使用されている方
- 閉所恐怖症など、狭い所が苦手な方
- 血圧が高くて気分が悪いとき
- 妊娠中の方
- 喘息発作中の方
- 肺疾患のある方
治療を受ける際に持ち込めないもの
- 静電気の起きやすい衣類(綿100%素材以外のもの)
- マッチ、ライター、タバコなどの火の気のもの
- 白金カイロ、使い捨てカイロなどの熱を発生するもの
- 補聴器、携帯ラジオ、音楽プレーヤー、携帯電話、万歩計などの電気製品
- 腕時計、ボールペン、万年筆、体温計などの密閉されたもの
- メガネ、コンタクトレンズ、入れ歯、ネックレス、ピアス、指輪、ヘアピンなど
- 雑誌、本などの可燃物
※整髪料・化粧品や油脂製品等を使用している場合は、治療を行う前に落として頂きます。
治療装置の日常点検体制について
高気圧酸素治療に使用する装置は、臨床工学技士が治療を開始する前に、装置の試運転(外観点検・加圧減圧試験)を行い、治療装置の安全性を確認しています。